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  「双月の落書き」 Vol.4
歯 黒  猛 夫 
 

「お好み焼きにマヨネーズなんかかけたらあきまへん。あれはソースだけで食べるもん。うちのソースは神戸で特別に作ってもろてます。小麦粉に山芋を混ぜるのも邪道です。小麦粉には熟成があって、グルテンの粘り気が一番ええころに焼くのが一番です」
 以上はとある雑誌の取材のとき、「双月」の大将がじきじきに語ってくれた談話である。もともとは小料理屋で戦後、先代が洋食屋を始め、その後、お好み焼き屋に転身したとか。現在残っている奇妙な内容のメニュー(ピーチメルバ、マロンクラネット等など。誰か注文して正体を確かめてください)はその時の名残で、特に、オムライスには自信があるとか。
 僕たち岸和田(旧市内)の子供にとって、「双月」や「一休」は親に連れていってもらう店だった。そして、子供たちが小銭を握り締めて駆けつけるのは、浜の「大和」、「よっちゃん」、そして、宮本町の「こやなぎ」。当然、宮本住民の僕は「こやなぎ」の常連であった。
 確か小学生のころ(30年近く前)、普通の洋食で20円、カラ焼きが10円だったような記憶がある。夏にはかき氷屋に変身。だるまの木型にかき氷と割り箸を押しつけたアイスキャンディーにイチゴのシロップをかけたものを、僕たちは「血だるま、血だるま」と呼び、秋の始めまで、開いただんじり小屋の周りで太鼓の音を聞きながら舌を真っ赤にしてしゃぶっていたものだ。
 その後、行動範囲が広がると、2つ上の兄貴とその友人に連れられて、「よっちゃん」にいった。 ここのカラ焼きはしょう油味で、僕には初めての体験。一緒に行った同級生のノブちゃんは何としょう油に酔ってしまったのだった(その後、彼は青年団のとき、自分が酒の飲めない体だと気付くことになる。酒を受け付けない人はしょう油でも酔うらしい)。
 中学生になり「大和」を知り、カシミン(かしわ=鶏肉のミンチ入り)を経験し、高校生になってからは「双月」で色んなことを体験することになる。煙草も吸ったし、私服でビールも飲んだ。他の高校の女の子と、今で言う合コンのようなものもした。
 今でも「双月」の個室に刻まれている落書きの数々。もし、高校生当時のものがそのままならば、昔好きだった女の子のイニシャルと、それをボールペンの先で消した跡がどこかに残っているかもしれない。25年前の僕が涙をこらえ、ボールペンを握り締めている姿と共に。

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