■長男に「発達障害の可能性」ある母親のケース 大阪版編集部に今月2日、堺市の母子家庭のお母さん・直子さん(37)=仮名=からファクスが寄せられました。この4月に小学校に入学した長男(6)が、同市教育委員会が実施している放課後の学童保育「のびのびルーム」の受け入れを断られたという内容です。このままでは仕事を続けるのは難しく、「収入が途絶えてしまう」と困り果てていました。長男は発達障害の可能性がありますが、保育所では友達と仲良く過ごしてきたそうです。取材を進めると、堺市ではこのような受け入れ拒否が近年増えていることが分かりました。 「のびのびルームの管理運営上、お子様の安全確保を図ることが難しいとの判断で、現段階では利用承認をさせていただくことができない結果となりました」 長男大ちゃんのルーム利用を申し込んでいた直子さんは3月14日に市教委から届いた「不承認通知書」を見て、頭が真っ白になった。 6畳二間のアパートに、次男(4)との3人暮らし。大ちゃんが1歳8カ月の時から託児所や保育所に預け、美容師として夕方まで働いて生計を立ててきた。大ちゃんが3月末で保育所を終えて小学生となり、放課後の居場所としてルーム利用は不可欠だ。 大ちゃんは、なぜ不承認になったのだろうか? 直子さんは不承認の通知を受けてすぐに、のびのびルームを担当する市教委の放課後子ども支援課に問い合わせた。 同課は、ルームの申込書に直子さんが「鬼ごっことかルールのある遊びが少し理解しにくいようだ」などと記入してあったのを見て、2月に大ちゃんの保育所へ出向いていた。そこで「友達とトラブルが多い」「目が離せない」など大ちゃんの様子を保育所側から聞き、受け入れ拒否を決めたとのことだった。 大ちゃんは専門家から、発達障害の可能性があると言われていた。昨夏のお泊まり保育のキャンプファイアの際、「大ちゃんのテンションが妙に高かった」のが気になって直子さんは複数の専門窓口に相談し、保育所とも話し合っていた。ただ、集団生活に特段の問題はなく、「伸びる可能性のある子」とも言われてひと安心していた。保育所側も「小学校への引き継ぎくらいのつもりでお話ししただけ。トラブルが多いなんて言っていない」と市教委の説明を否定した。 直子さんは、不承認の判断は誤解に基づくものではないかと考え、もう一度大ちゃんの保育所での様子を見てほしいと頼んだ。しかし、認められなかった。 ◆「指導員が必要で安全に預かれぬ」 情報提供を受けて記者が堺市教委に取材したところ、大ちゃんは「配慮が必要な子」と判断されていた。指導員が付く必要があり、今のルームの態勢の中では安全に預かれないと考えたという。直子さんが申し込んだルームは定員80人のところに約90人がおり、何らかの「配慮が必要な子」がすでに3人いるという。 今月に入って、市教委から直子さんに連絡が入った。「可能ならば出来るだけ早い段階で受け入れたい」という内容だった。その言葉通り、市教委の担当者は10日に大ちゃんの様子を小学校に見に行き、14日からの受け入れを急きょ決めた。 「そんなに早く出来るなら、なぜ3月中に来てくれなかったのか」。直子さんは今も釈然としない。一時的にせよ、「受け入れを断られた子」という事実が残ってしまった。それに「仮に発達障害があったとして、だから断るというのも納得できない」。 ◆「昨年不承認41人 明確な基準なく」 堺市では、確認が可能な03年以降の記録を見ると、大ちゃんのように「配慮が必要な子」と判断され不承認になるケースが近年急増していた。04、05年は一けただったのが、06年24人、昨年は41人に上っている。市教委は「申込者も、『配慮が必要な子』も増えているため」と説明するが、受け入れ拒否の伸びは、申し込み以上だ。 市教委は承認の可否の基準について、「ルームの込み具合や、子どもの様子を見て、安全にその子を預かれるか総合的に判断している」といい、明確な決まりはないという。「配慮が必要な子」にも厳格な定義はないそうだ。 受け入れ拒否が増える前に同市内のルームでこんな出来事があったことも分かった。軽い発達障害を持つ男児がパニックを起こした際に現場のケアワーカーが体罰を繰り返していたという問題で、05年に発覚している。 市教委は、この一件と受け入れ拒否の増加は無関係、とする。「拒否の増加は『配慮が必要な子』も含め、出来るだけ多くの児童を受け入れてきた結果という面もある」(放課後子ども支援課)と説明し、何らかの方策を検討しているという。 厚生労働省は05年、発達障害者支援法の施行に伴い、発達障害児も含め障害児を学童保育でも適切に受け入れるよう都道府県や政令指定市に通知。障害児受け入れによる加算金も出している。全国的には、障害児を受け入れる方向へと向かっている。 ◆「受け入れ 努力すべき」 全国学童保育連絡協議会の真田祐・事務局次長は「仕事をしなかったら生活できなくなる母子家庭にとって、学童保育はライフラインだ。障害があったとしても構えてしまうのではなく、適切な研修をするなど、受け入れるための努力をすべきではないか」と堺市教委の対応に首をかしげている。
―――――――<キーワード>――――――― ◆堺市ののびのびルーム 市教委が市教育スポーツ振興事業団に運営を委託している。07年5月時点で、ルーム数は86カ所、利用している子どもは計約7300人。うち256人が「配慮が必要な子」という。指導員の支援のもとで、主に集団による遊びやスポーツをして過ごす。費用は児童1人あたり月8千円。 [2008年4月16日 朝日新聞] |